生まれ変わろう、そして

これは 中村 中 Advent Calendar 2015 6日目の記事です。

先月までやたらと忙しかった。12月に入ったら少しは余裕ができるかなと思っていたけど、この土日も出勤で擦り減っている。会社を出るときも、あしたも仕事かと思うと駐車場まで歩く足取りが重くなる。寒風に吹かれてため息つきながら車に乗り込んでエンジンをかけると、カーステレオから中さんの歌が流れてきた。発売からここずっとヘビーローテーションのニューアルバム。

 

『去年も、今年も、来年も、』

 

弱りかけたときに聞くとかなわないなぁ、もう。

 

こんな時でも ヒナギク タンポポ レンゲソウ どうして綺麗なの

(木の芽時)

 

漠然とした未来への不安。賑わいの中の寂寥感。世界に取り残されたような感覚。過去には戻れないという喪失感と諦念。触れたら血が出そうな言葉が詰まっているのに、ああ、どうしてこんなに綺麗なの。春夏秋冬2曲づつの恋模様の構成に大人っぽいアレンジのこの完成度。

 

区切りなんて数字の上のことだけど、それでも今年30歳、そして来年デビュー10周年という今だから作れた作品だと思う。アルバムコンセプトは「うまくいかない恋」。世の中のさまざまな「うまくいかないこと」を恋に仮託して歌い上げる。いまの中さんの到達点がここにある。すごい。

 

車中夜景を見ながら先行配信曲でもある「逢いびきの夜」を聞く。

 

「生まれ変わろう そして」

 

2月のライブのタイトルでもあるこの言葉。ここだけ取り出せば、ともすれば安い自己啓発の呼びかけに聞こえるかもしれない。そう簡単に人が生まれ変われるものかよ、っていう反発を覚えるような。

だけど、これは、わけありだけど、たとえだめであろうと、という覚悟のうえでの「生まれ変わろう」という決意、そこからの「そして」なんだ。

そうなんだ。そうなんだ。『去年も、今年も、来年も、』この読点の余韻なんだ。だから真に胸に迫ってくるんだ。今ならわかる。

 

さっき夕食をとりながら見ていた「下町ロケット」で阿部寛演じる主人公が「挫折を経験したことがない者は何も新しいことに挑戦したことがない者だ」というアインシュタインのことばを引いていた。中さんを知ったのは自分がまさに挫折してどん底にいた時だった。

 

あなたがいたから 生きて来れました

(逢いびきの夜)

 

 

  でもあの頃は新しいことに挑戦した結果の挫折というより、臆病さでずるずると落ちて自分自身がただ情けないだけだった。あれから中さんの歌に救われながら支えられながら今や自分も齢三十半ば。今ならつまづいても、うまくいかなくても、この決意を胸に刻んで立ち上がれる気がする。

 

生まれ変わろう、そして。